勉強をしますか。何か書きますか。君方は新時代の作家になる積(つもり)でせう。僕も其積であなた方の将来を見てゐます。どうぞ偉くなつてください。然し無暗にあせつては不可(いけ)ません。たゞ牛のやうに図々しく進んで行くのが大事です。(中略)
牛になる事はどうしても必要です。吾々はとにかく馬になりたがるが、牛には中々なり切れないです。僕のやうな老猾なものでも、只今牛と馬とつがつて孕める事ある相の子位な程度のものです。
あせつては不可(いけま)せん。頭を悪くしては不可せん。根気づくでお出でなさい。世の中は根気の前に頭を下げる事を知つてゐますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えて呉れません。うんうん死ぬ迄押すのです。それ丈です。決して相手を拵(こし)らへてそれを押しちゃ不可せん。相手はいくらでも後から後からと出て来ます。さうして吾々を悩ませます。牛は超然として押して行くのです。何を押すかと聞くなら申します。人間を押すのです。 - 1916年、49歳の夏目漱石が、小説家として歩み始めたばかりだった24歳の芥川龍之介と久米正雄に送った書簡から抜粋
牛になる事はどうしても必要です。吾々はとにかく馬になりたがるが、牛には中々なり切れないです。僕のやうな老猾なものでも、只今牛と馬とつがつて孕める事ある相の子位な程度のものです。
あせつては不可(いけま)せん。頭を悪くしては不可せん。根気づくでお出でなさい。世の中は根気の前に頭を下げる事を知つてゐますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えて呉れません。うんうん死ぬ迄押すのです。それ丈です。決して相手を拵(こし)らへてそれを押しちゃ不可せん。相手はいくらでも後から後からと出て来ます。さうして吾々を悩ませます。牛は超然として押して行くのです。何を押すかと聞くなら申します。人間を押すのです。 - 1916年、49歳の夏目漱石が、小説家として歩み始めたばかりだった24歳の芥川龍之介と久米正雄に送った書簡から抜粋

